COP28合意 – 化石燃料脱却・再エネ3倍 公約の有効性

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COP28合意 – 化石燃料脱却・再エネ3倍 公約の有効性

COP28はいくつかの主要なマイルストーンとなるコミットメントをもって終了した。しかし、多くの専門家は依然として警戒心を抱く。説明責任や資金調達に関する疑問も残されている。

2023年12月20日 – Energy Tracker Asia

最終更新日:2024年6月7日

2週間にわたりアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで開催されていた第28回国連気候変動条約締約国会議(COP28)は、化石燃料からの脱却に向けた合意で閉幕を迎えた。

COP28会議に臨むにあたり、議長国のUAEは4つの主要テーマ目標を打ち出し、会議の枠組みを構築。2週間の議論を通して、この枠組みを支える170以上の発表や約束がなされ、コミットメントの数はCOP27と比較して大幅に増加した。サステナビリティへの投資に対する、世界的な意識と意欲の高まりを示すものであったといえる。

しかし、COP28の成果にはさまざまな反応があり、専門家、政府の意思決定者、環境保護団体は、これらの公約の有効性と公約の実行について、議論している。COP28の主な成果を振り返り、今後の気候変動対策への影響を整理したい。

化石燃料の廃止と再生可能エネルギーへの移行

COP28の合意文書は、サミットを通じて行われた多くの公約をまとめたものだ。今回初めて、「2050年までの化石燃料の段階的廃止」を含むこととなり、化石燃料時代の「終わりの始まり」として多くの人々に歓迎されている。

合意文の焦点は、化石燃料からの脱却と、再生可能エネルギーの導入を加速させるという明確な目標だ。最終的には2050年までのネット・ゼロを国境を越えて目指す。さらに、2025年までには排出量のピークを迎え、2030年と2035年に段階的に削減するという、科学的根拠に基づく削減目標にも言及している。

これにともなって、2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にし、年間のエネルギー効率を2倍に改善するという目標も合意に至った。加えて、排出削減措置が施されていない石炭火力の段階的削減を加速させることも求める運びだ。

炭素回収・貯留(CCS)については、どの分野で使用すべきかを明確にし、広く活用するのではなく、排出削減が難しい分野で使うべきであるとした。CCSを化石燃料によるCO2排出を帳消しにするための手段とはとらえず、化石燃料の使用そのものを停止する必要性を強調している点で、これは大きな一歩となる。

COP28合意文書の懸念と課題

しかし、合意にはいくつかの懸念も残される。公平性については直接言及されておらず、各国の再生可能エネルギー目標も定量化されていないため、多排出国がどのように公平に気候変動への責任を果たすのかが示されていない。

加えて、排出削減処置を施していない石炭火力発電を段階的に削減することは良いスタートではあるものの、この問題に関する文言はまだまだ曖昧さが残る。地球温暖化を抑制するためには、石炭エネルギーの廃止と、新たな石炭火力発電所の開発停止を各国に誓約させる必要がある。

エネルギー転換と適応への資金調達

そして、何より、合意文書には、エネルギー転換と気候変動への適応のための資金調達に関する情報が著しく欠ける。より多くの資金調達の必要性には言及しているものの、具体的な数字や仕組みが提示されていない。発展途上国からは、2030年までにエネルギー転換のために毎年2兆米ドルが、さらに、適応のために毎年3,000億米ドルが必要とされているため、資金調達は重要な課題だ。おそらく2024年のCOP29でも、議論の中心となることが予想される。

出典: International Monetary Fund

自然環境の保護と農業の脱炭素化

COP28の合意には、自然環境の保護に関する重要な約束も含まれる。大まかには、気候変動との闘いにおける自然と生物多様性の役割を認識し、自然環境の保護が気候変動対策目標と整合していることを示している。自然は人間による排出量の約50%を吸収すると推定されている。2030年までに森林破壊を食い止め、回復させるというCOP26の目標が繰り返される形となった。

さらに、農業が世界の温室効果ガス排出量の3分の1を占める状況を踏まえて、農業の脱炭素化と、増加する世界人口を支えることのできる気候変動に強い食料システムの開発の必要性が強調されている。

「損失と損害」基金の運用

合意文書以外にも、重要な成果があった。COP28で最も早く合意されたことの一つは、途上国支援のためにCOP27で策定された「損失と損害」基金を動員することだった。この基金によって開発途上国で必要とされている気候変動被害へ支援を提供できる可能性が高まった。歴史的な瞬間として評価する声も多く上げられた。

しかし、それが十分であるかどうかについては懸念がある。誓約された7億米ドル以上の資金は、開発途上国が必要とする推定額の0.2%にも満たない。基金の能力と気候変動に脆弱な国のニーズとの間に、大きなギャップがあることを示す。さらに、誓約を行った締約国はわずか16カ国であり、温室効果ガス排出大国の中には、少額の誓約しか行わなかった国、誓約を行わなかった国もあった。先進国から拠出されるべき資金の不足は、気候変動対策において普遍的な課題だ。

出典: The Loss and Damage Collaboration

排出量削減のための追加支援

また、官民セクターの排出量に焦点を当てた重要な誓約もあった。特筆すべきは、複数の国々が、冷房部門の排出量を68%削減し、2050年までに原子力発電能力を3倍にすることに合意したことだ。

民間部門では、世界の石油生産量の40%を占める石油、ガス会社50社が「石油・ガス脱炭素憲章(OGDC)」に署名した。これらの企業は、2050年までにネットゼロを達成し、メタン排出をなくし、日常的なフレアリングを終わらせることを約束している。これはCOP議長であるスルタン・アル・ジャーベル氏の重要な提案だった。歴史的に石油、ガス産業と対立してきた気候変動対策の勝利であるといえる。

その他の重要な民間部門のコミットメントには、海運関連の排出量削減、電力会社による再生可能エネルギーシステムのための送電網ネットワークの確保、ブレークスルー・アジェンダの拡大などが挙げられる。

気候ファイナンスの進展

新規合同数値目標(NCQG)の作成でも進展があった。各国は、COP29の前に新しい資金目標の草案を作成することで合意している。NCQGは、先進国が途上国に対して約束している年間1000億米ドルの資金提供に代わるものとなる。この一歩により、NCQG策定プロセスは動き出したが、まだ来年を通して継続的な交渉が必要となる。

出典: NRDC

加えて、緑の気候基金(Green Climate Fund)には35億ドル以上、適応基金(Adaptation Fund)には1億8770万ドル、後発開発途上国基金(Least Develop Countries Fund)には1億4440万ドル、特別気候変動基金(Special Climate Change Fund)には3490万ドルの拠出があった。

COP28の気候変動対策への影響

COP28で各国は過去最多の公約を策定した。しかし、成果は十分ではないという意見も多くある。特に、国際エネルギー機関(IEA)は、すべての国が新たな再生可能エネルギーと脱炭素化の約束を達成したとしても、パリ協定に沿った2030年までに必要な排出削減量の3分の1にしかならないと指摘している。

しかも、公約は必ずしも達成されるとは限らないのだ。これは、先進国が2009年に途上国のために誓約した年間1,000億米ドルの資金調達に失敗し続けていることからも明らかだろう。

今後、国、組織、民間セクターは、それぞれの約束に対して説明責任を果たさなければならない。説明責任がなければ、気候変動対策は遅々として進まず、温暖化を1.5℃未満に抑えることは難しくなるだろう。さらに、各国が気候変動対策の目標を引き上げ続けることが極めて重要であり、特に2025年初頭に予定されている「国が決定する貢献(NDC)」の引き上げは重要となる。

2024年にアゼルバイジャンで開催されるCOP29は、各国がNDCについて議論し、世界の脱炭素化目標がパリ協定に合致するようにするための極めて重要なポイントとなる。UAEに続いて、アゼルバイジャンも化石燃料に依存するホスト国となり、UAEのCOP28対応から学ぶ必要があるだろう。すでに世界中が気候変動の影響を受けている。その影響は今後数年でさらに増大すると予測されている。私たちに残された時間は残り少ない。

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