COP28 貿易デー:ビジネスのマインドで進める気候変動対策

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COP28 貿易デー:ビジネスのマインドで進める気候変動対策

貿易は、世界の脱炭素化に不可欠な役割を果たす。COP28で初めて貿易が会議の焦点となり、関連議論のための日程が設けられた。官民セクターがハイレベルの議論を実施、重要な公約が交わされている。

2023年12月16日 – Energy Tracker Asia

最終更新日:2024年6月8日

貿易は、どのような方法で行うかによって世界の脱炭素化を左右する、非常に影響力の大きい分野だ。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されているCOP28では、4日目のテーマが「金融、貿易、ジェンダー平等、説明責任」とされ、COPで初めて貿易が議論の焦点となった。COP28議長のスルタン・アル・ジャーベル氏は「ビジネス・マインドセット」で気候変動対策に取り組む必要性を何度も強調。会議の重要なポイントとなった。

国連世界貿易機関(WTO)主催のイベントも含め、ハイレベルの議論がいくつか行われ、数十億ドルの資金調達と誓約が発表されている。COP期間中に議論は続くが、金融・貿易デーには好ましい結果が得られたといえるだろう。

気候変動に配慮した公平な成長のための貿易

グローバルな貿易ネットワークの変化なしに、世界を脱炭素化することはできない。脱炭素化には、貿易によって低炭素技術に不可欠な資源の取引を促進し、政府の政策によって、そうした資源や製品の市場を発展させなければならない。そして、貿易によるCO2排出は膨大であり、世界のCO2排出量の4分の1以上を占めている

脱炭素化には資源が不可欠

国際貿易は、バッテリー用リチウムや風力発電用レアアースなど、エネルギー転換に必要な資源を供給するために必ず必要となる。再生可能エネルギーへの移行に不可欠な鉱物の需要は、2030年までに4倍になると予想される。

これらの資源は、主に国際的な協力と貿易を通じて入手が可能となる。資源を採掘、精製、輸送するための強固な産業を発展させることは、低炭素技術の開発にとって極めて重要だ。インフラと貿易システムを改善することで、資源へのアクセスをより簡単にし、原材料の埋蔵量が多い国々においては、より良い社会経済システムを構築することに繋がる。

考慮すべきことは、これらの資源の多くが発展途上国にあり、倫理的かつ適切に資源を採掘するための監視体制が整っていないことが多いということだ。

出典:Clean Energy Wire

例えば、コンゴ民主共和国(DRC)は世界の50%のコバルト埋蔵量を保有する。コバルトは、電子製品、特にバッテリー、電気自動車、その他のエネルギー貯蔵に不可欠な合金成分だ。しかし、コンゴ民主共和国の既存のサプライチェーンはコバルト需要が増加するにつれてボトルネックになる可能性がある。また、採掘事業には現在も倫理的な懸念が残る。

COP28の貿易デーでは、この問題への取り組みについてハイレベルな議論が数度もたれたが、直接的な合意はなされていない。

低炭素技術促進のための政府インセンティブ

貿易はクリーンエネルギー技術の普及と実施を促進するために不可欠であり、低炭素商品の移動や関連技術、知識の移転をスピードアップする。

技術、知識の移転はクリーン技術の向上につながり、さらに特に発展途上国の製造部門において、こうした革新技術のより安価な利用を可能にする。貿易を通じて、気候に配慮した技術を、それを最も必要とする地域に届けることができるということだ。

政府のインセンティブが低炭素ビジネスに与える影響を示すフローチャート(出典:Frontier

そのための主要な方法のひとつが、関税、補助金、規制などの貿易措置となる。こうした措置により、国際貿易における障壁を減らし、低炭素製品に対する競争市場を創出することができる。

例えば、欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、EU域内の輸入業者に対し、外国で生産された製品の温室効果ガス排出量の報告を求めるEUの新政策だ。2026年以降、EUの企業は、EU域内で生産された製品でなくても、その製品に関連する排出量をカバーする証明書を購入しなければならない。この政策は、企業がEUのグリーン転換を回避するために製品を国外で生産することを防止し、より炭素集約度の低い方法で、域内で製品を生産することを奨励することを狙う。

また、ドイツのオラフ・ショルツ首相が去年のG7サミットで提唱した「気候クラブ」がCOP28で正式に発足している。これは、地球温暖化を1.5℃未満に抑えるという共通の目標の下、産業の脱炭素化のための国際協調の枠組みとして、現在では35カ国が参加する。貿易面では、各国間の貿易障壁を削減し、気候に関する相互の進展を図るとともに、気候、貿易、開発政策の間に新たな相乗効果が生まれることを示す狙いだ。

貿易による排出量の削減 

広大な世界貿易ネットワークは、世界のGDPの56%以上を支えている。国際的に輸入される財貨の80%は海運によって運ばれる。国際貿易、特に海運の脱炭素化は、地球温暖化を1.5℃未満に抑えるために不可欠なのだ。

出典: Our World in Data

国連をはじめとする主要機関が、貿易の脱炭素化を求めている。世界の大手海運会社数社のCEOはCOP28で共同宣言を発表し、化石燃料のみを動力とする新造船の廃止を求めた。この共同宣言では、国際海事機関(IMO)に対し、この移行を支援する規制を設けるよう主張する。

さらに、国際商工会議所は貿易取引の持続可能性を評価する枠組みの拡大を発表。これにより、これまでは繊維産業だけであったものが、エネルギー、農業、自動車セクターも含まれるようになった。普遍的な枠組みを作ることで、貿易の持続可能性のベンチマークをつくり、比較し、より持続可能な方法を採用するよう促すことができる。

COP28の貿易デー: さらなる行動が必要

COP史上初めて貿易に焦点が当てられたことで、低炭素技術への移行を促進し、気候変動に対処する上で、貿易が不可欠な役割を担っていることが強調された。また、気候変動対策の進展には、ビジネスのマインドが不可欠であることが共通の認識となった。特に気候変動に配慮した成長の促進や貿易における排出量への対応など、実効的な議論や誓約がなされた。しかし一方で、決定的な合意はまだ得らていないといえる。

COP28が進むにつれ、現在進行中の議論が、より実質的で実行可能な誓約につながり、持続可能で公平な未来に向けた行動を推進するよう、期待が高まる。

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