日本の風力発電の利点と将来性

1216

日本の風力発電の利点と将来性

日本政府は、風力発電を現実的な代替エネルギーとして検討し始めていますが、実際の導入は未だ滞っています。風力発電の普及を加速させるには、現在障害になっている行政負担に対処し、より野心的な政策を導入する必要があります。

2023年11月27日 – Energy Tracker Asia

最終更新日:2023年12月8日

2024年の日本の風力発電予測

Global Wind Organisation(GWO)と世界風力会議(GWEC)による報告書『Global Wind Workforce Outlook 2022-2026』によれば、世界の洋上および陸上風力発電容量は、2022年の837GWから2026年には1,394GWに急増すると予測されています。その結果、世界では風力発電産業において、新たに449,800人の風力発電技術者が必要となります。そのうちの約86%は9カ国に集中しており、日本もそのうちの一つです。

日本には浮体式洋上風力を中心に膨大な風力エネルギーのポテンシャルがあり、石炭、石油、ガス、ウランなどの輸入エネルギーに依存することなく、エネルギーを自給できる可能性を備えています。エネルギーの自給に加え、より安価なエネルギーを確保し、脱炭素化を加速させることにも繋がります。

2022-2026年に研修を必要とするC&IおよびO&M風力技術者の追加内訳 出典: GWO and GWEC
2022-2026年に研修を必要とするC&IおよびO&M風力技術者の追加内訳 出典: GWO and GWEC

日本の陸上・洋上風力の電力容量

GWECとGWOによれば、日本は現在までに、4.5GWの陸上風力発電容量と52MWの洋上風力発電容量を設置しています。2026年までに陸上風力を3.5GW、洋上風力発電を1GW近く追加する計画です。

陸上風力と洋上風力の増加とC&Iの労働力需要予測。出典: GWEC and GWO
陸上風力と洋上風力の増加とC&Iの労働力需要予測。出典: GWEC and GWO

日本の風力発電のポテンシャル

世界銀行の推定によれば、地理的条件から日本には550GWあまりの洋上風力発電の技術的可能性があります。GWECは、水深の浅い海域での着床式風力発電で約128GW、水深の深い海域での浮体式洋上風力発電では424GWの容量の可能性があるとみています。ゼロ・カーボン・アナリティクスによれば、日本の洋上風力発電の技術的可能性は合計で9,000TWh/年以上となり、これは2050年に予測される日本の電力需要の9倍以上にもなります。日本で再生可能エネルギー100%のエネルギーを供給するのに必要な量の14倍以上の太陽光と洋上風力の資源があるとする試算もあります。日本の排他的経済水域には、現在の電力消費量の50倍の電力を供給できる洋上風力発電のポテンシャルがあります。

日本風力発電協会(JWPA)も、日本が持つ計り知れない風力発電の可能性を認めています。現在の発電容量はわずか5GWですが、2050年までに、陸上風力を40GW、着床式洋上を40GW、浮体式洋上を60GW、合計で140GWまで増やすという野心的な目標を掲げています。目標が実現すれば、風力発電は日本の電力需要の約3分の1を満たすことになります。

しかし、政府の計画はそれほど野心的なものではなく、入札を通じて、2030年までに10GW、2040年までに30GWから45GWの追加を促す計画を発表しています。

風力発電が日本にもたらす利点

膨大な風力エネルギーのポテンシャルは、電力コスト、エネルギー自給率、CO2排出量、座礁資産リスクなど、化石燃料技術に関連するあらゆる課題に対する解決策となり得ます。

JWPAは、目標が実現した場合、新たな風力発電設備と洋上風力発電所によって、2050年には年間約444億米ドルの経済的利益を生み出し、35万5,000人の雇用創出と、年間約167億米ドルの化石燃料コストの削減が期待できると予測しています。

より安いエネルギー

GWECの『Global Wind Report 2023』によると、風力エネルギー技術のコストは過去20年間で大幅に削減されました。太陽エネルギーと並んで、世界的に最も安価な電力のひとつとなっています。

技術別の過去のLCOE(米ドル/MWh)出典: BNEF
技術別の過去のLCOE(米ドル/MWh)出典: BNEF

TransitionZeroの試算によれば、2030年までには、最も複雑で高価な風力技術である浮体式洋上風力発電でさえ、現在最も価格競争力のある石炭火力発電(削減対策がなされていないものを含む)よりも安くなるとみられています。

2030年における日本の異なる電源のLCOE 出典: TransitionZero
2030年における日本の異なる電源のLCOE 出典: TransitionZero

2030年までには、洋上風力発電の新規建設コストは、新設の原子力発電や炭素回収・貯留が可能な石炭発電よりも低くなると予測されています。

エネルギー自給の確保

現在日本はエネルギー需要の約90%を輸入に頼っており、世界最大のLNG輸入国でもあります。再生可能エネルギーを優先させることは、日本の輸入依存の問題を緩和するのに役立ちます。

専門家の試算では、1GWの洋上風力発電所があれば、同量の発電に必要な天然ガスを8億立方メートルを削減できます。2022年だけでも、1GWの風力発電所で9億2800万米ドルの輸入天然ガスコストを回避できたことになります。

その上、石炭や天然ガスから風力発電などの再生可能エネルギーへの転換は、数十億ドルが滞留した化石燃料の座礁インフラの問題を解決することにもなるでしょう。

脱石炭の加速と信頼回復

クライメート・アクション・トラッカーの分析では、日本は現在の野心的とは言えない削減目標でさえ、達成の見込みがありません。同団体は、すべての国が日本と同様のアプローチをとった場合、温暖化は3℃に達するだろうと警告しています。

風力発電を大規模に導入すれば、日本の脱炭素化は大きく前進し、気候変動対策が遅れている、という国際的な批判を覆すことができるでしょう。試算によれば、2035年までに洋上風力のエネルギーミックス全体に占める割合を18%にするだけでも、日本の電力部門を90%脱炭素化させるための軌道に乗せることができます。

政府の役割:より野心的な目標と政策

GWECは、日本には洋上風力プロジェクトの初期展開のために十分な目標と政策があると指摘しています。しかし、大規模なスケールアップのための強固な政策とプロジェクトのパイプラインが欠けていると指摘する専門家もいます。

改善すべき重点分野には、長期間の環境影響評価(EIA)の簡素化、グリッド接続プロセスの合理化、プロジェクト開発者の参入を容易にするための入札ルールの明確化、スケジュール通りの調達と完了の担保、洋上風力産業の支援などが挙げられます。JWPAは、官民間の協力関係の強化を求めています。一方GWRは、風力調査、資源測定、送電網接続の効率化を改善するため、集中入札制度への移行を提唱しています。

競争力のあるカーボンプライシングの仕組みを導入することも、風力発電投資を促進するための重要なステップです。日本では現在、炭素税が非常に強い反対に直面しており、税率は世界でも最低水準にとどまっています。

IEAは、洋上風力発電の導入の成功は、陸上送電網の容量開発にかかっていると指摘しています。陸上送電網ネットワークのアップグレードや拡張に失敗すれば、日本の洋上風力のポテンシャルのかなりの部分が未使用のままとなる可能性があります。

さらに、洋上風力発電所の平均建設期間はわずか18ヶ月に短縮されています。コスト低下とともに、日本には風力発電開発を加速させるための前提条件が揃っています。実際の導入のために最も重要なステップのひとつが、既存の目標よりも野心的な長期目標を策定することです。日本政府の2040年までに45GWの洋上風力発電を設置するという目標は、JWPAの目標(2050年までに140GW)をはるかに下回っています。JWPAは、2050年までに国の目標を少なくとも100GWに引き上げるよう求めています。明確なロードマップを策定することにより、海外投資家や現地のサプライチェーン開発に関心を持つ企業の誘致にもつながります。サプライチェーンの現地化は、日本政府が重要な優先課題としていることでもあります。

※この記事は、2023年11月6日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが許可を得て日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

関連記事

すべて表示
円安が続く原因と日本経済へのメリット:再エネ投資の好機到来
COP28 貿易デー:ビジネスのマインドで進める気候変動対策
日本の石炭への固執
日本のアンモニアグリーンウォッシングに対する批判の背景にあるもの

読まれている記事

すべて表示
						
世界的なエネルギー危機でフィリピンでのLNG計画に支障か
世界のLNG見通し、バングラデシュの先行きは厳しい
日本、ベトナム、韓国における新たなガス発電は、消費者を地政学的リスク、LNG供給の制約、価格変動にさらし、ネットゼロの目標を損う
日本の洋上風力:未開発の可能性