日本が2050年にカーボンニュートラルを達成するために必要なもの

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日本が2050年にカーボンニュートラルを達成するために必要なもの

GreenOak / Shutterstock.com

日本は、脱炭素化が進まず、化石燃料に固執し続けていることに対して世論の批判を受けながら、今年のG7会合の開催を控えています。しかし今、国として、その批判に反証できる、独自の立場にあります。これが叶えば、日本にとっても地域全体にとっても、さまざまな恩恵がもたらされるはずです。

2023年7月12日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia

最終更新日:2023年12月8日

日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指しています。しかし、これまでの経過や脱炭素戦略を考慮すると、この目標は非現実的なものに思えます。目標を達成できなかったことも問題ですが、それ以上に問題なのは、日本が自国や気候変動の影響を受けやすい国々での化石燃料プロジェクトを支援し、気候変動による危機を積極的に拡大させてきたという事実です。今こそ、国として立ち上がり、世界が求めているリーダーシップを発揮する時です。

日本は気候危機を拡大させている

日本は、世界第5位のCO2排出国です。最も革新的な国の一つとして、気候への影響を抑える方法を模索するのは当然のことのように思えますが、現実は正反対です。

化石燃料を延命する選択肢を探る

この1年、日本は化石燃料の使用延長を図るため、いくつかの手順を踏んできました。

国として、「クリーン石炭」テクノロジーの構想を発信し始めています。これは、一言でいえば、石炭とアンモニアの混合を目指すものです。しかし、混焼計画ではブルーアンモニアを使用することになり、排出量削減にはつながりません。その上、2030年までにアンモニアと石炭の混焼率を50%以上とすることを目標としています。

また、水素をベースとした先進的な経済圏を目指し、突き進んでいます。しかしながら、その大半でブルー水素を使用することを予定しています。専門家によると、水素は全体として未開拓の技術であり、グリーン水素の実現性にも疑問が残ります。

水素やその他の未実験の技術に重点を置くことで、太陽光や風力といった、よりクリーンで実績のあるエネルギー源への投資から焦点をずらしています。また、化石燃料がエネルギーミックスで果たす役割は大きく(総発電量の88%)、今後も主要な排出国であり続けるでしょう。このような動きは、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標から日本をさらに遠ざけるものです。

国内外の化石燃料プロジェクトへの資金提供

日本がG7で海外への石炭融資の廃止に合意するまでには、多くの説得を要しました。しかし、Fossil Free Japanによれば、その後もバングラデシュやインドネシアなど海外の石炭プロジェクトに融資を続け世界最大の化石燃料の公的融資国であり続けています。

単位:10億米ドル、出典:Fossil Free Japan

日本が海外の石炭支援とつながっていることは、企業レベルで見ても明らかです。日本の民間金融機関や年金積立金管理運用独立行政法人は、歴史的に石炭産業の最大の融資者となってきました。現在でも、日本の銀行は海外の石炭プロジェクトに資金を提供し続けています。

2022年のG7会議後、日本はようやく他のグループと一丸となって石炭の段階的削減に合意しました。しかし、文言が不明確で、期日も決まっていないため、コミットメントに緊急性が感じられません。国内では、現在も167基の石炭発電所が稼働しており、4基が建設中、3基が停止中となっています。合計で7つのプロジェクトが中止または廃止されました。

そして、日本の海外石炭への公的支援が終わりつつある今、その戦略はLNGへと向かっています。2022年には世界最大のLNG輸入国となりました。また、LNGの上流プロジェクトへの投資を強化する計画も存在します。日本企業はこのようなプロジェクトにおいて、依然として主要な海外投資家となっています。

日本が抱えるリスク

日本の脱炭素戦略は、日本にとっても、アジア地域にとっても、さまざまなリスクをはらんでいます。

日本が2050年までにカーボンニュートラルを実現できないリスク

科学者によると、パリ協定の目標を達成するためには、OECD諸国は2030年までに石炭を廃止する必要があります。  

しかし、日本の2030年エネルギーミックス案では、石炭の占める割合は19%と高い水準になっています。LNGは20%を占めます。

日本の2030年エネルギーミックス案
出典:SPグローバル

Climate Action Trackerによると、日本の脱炭素化の進捗と戦略は不十分です。現在の計画では、28~33%の排出量削減レベルにとどまる見込みです。これは2030年までに46%という目標を大きく下回っており、野心的とは言えません。その結果、日本が2050年までにカーボンニュートラルを達成するのは難しいでしょう。

国際的な批評と世論による精査

日本の脱炭素戦略は、世論の信用を失いつつあります。 

この1年、官民の金融機関が化石燃料を支援しているとして批判にさらされています。世論や意識の高い投資家からの圧力を受け、各機関はいくつかのプロジェクトから撤退しました。

また、ロシア産の化石燃料への依存を解消することにも苦戦しており、年間を通じてロシアからの輸入が上位を占めました。これは現在も続いています。報道によると、日本企業は2022年、ロシアの国家予算へ大きく貢献している国の一つとなりました。

また、日本の移行債プログラムは、移行債のグリーンウォッシングの懸念を表面化させました。世論は、日本の脱炭素戦略にグリーンウォッシングの兆候と不誠実さを感じ取っています。

さらに、市民団体は、日本に対し、化石燃料や誤った解決策を支持することをやめ、代わりに再生可能エネルギーを優先するよう求めています。日本のテクノロジー企業についても、脱炭素化が進んでいないことが露呈しています。

未来のエネルギー依存と電力コストの高騰が現実に

日本が化石燃料と水素やアンモニアなどの代替電源ソリューションに依存し続けることにより、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標から遠ざかることはもちろん、エネルギー依存の問題が深刻化します。

現在では、石炭需要のほぼ100%を、インドネシアとオーストラリアからの輸入で賄っています。全体として、日本は、エネルギー需要の96%を輸入に頼っています。その結果、G20の中でも上位の化石燃料支持国であり続けています。

また、混焼プロジェクトのために、大量のアンモニアを輸入する計画を立てています。国内生産では水素計画を満たすことができず、政府は2050年までに総需要の最大8割を輸入で賄う計画を立てています。

日本のエネルギー自給率はわずか13.7%で、アジアで最も低い水準にあります。さらに、国内の一次エネルギー生産量と消費量の比率は11.2%(EUは60.7%)となっています。 

このような輸入への依存の結果、日本の電力コストは2022年に過去最高を記録しました。日本のすべての電力会社は9月、燃料費の上昇を転嫁するため、年間上限まで値上げを行いました。政府は補助金によって事態を収拾しようとしていますが、その効果は一時的なものでしょう。問題は根深く、今年中に新たなエネルギーの引き上げが予想されます。

気候変動リスク

日本は気候変動リスクが最も高い国として、常に上位に位置しています。

この1年間、東京では1875年の記録開始以来、35°Cを超えた連続日数が最長となりました。このような高気温は、高齢化が進む日本にとって、熱中症のリスクを高めます。また、食糧安全保障を脅かし、国内の珊瑚礁を破壊しています。

しかし、気温の上昇は問題の一部に過ぎません。

島国である日本は、特に海面上昇の影響を受けやすい国です。環境省は2012年、60cmの上昇によって、日本の4大都市がある3大湾岸地域において、海抜以下で生活する人口が最大で50%増加すると試算しました。

その上、日本は大気汚染にも悩まされています。その結果、大気汚染に直接関連する死亡者数は増加の一途をたどっています。 

日本は模範としてリーダーシップを発揮すべき

日本は、世界で最も裕福な国の一つであり、気候変動危機の最も大きな要因となっている国の一つでもあるため、明確な責任があります。国として、化石燃料への支援をやめ、各国がクリーンエネルギーに移行するのを支援すべきです。

今年のG7開催国である日本は、エネルギー危機から世界を導き、気候変動に効果的に対処するための火付け役として注目されています。これが上手くいけば、経済を保護し、グリーン成長への道を歩むことができます。日本のクリーンエネルギーの大きなポテンシャルを考えれば、この機会は逃す手はありません。日本の立場としても、これを逃すわけにはいきません。

※この記事は、2023年2月19日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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