日本の水素戦略 – カーボンニュートラルへの遠回り

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日本の水素戦略 – カーボンニュートラルへの遠回り

2023年7月5日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Japan

日本のような先進国は、世界のクリーンエネルギーへの移行をリードすべきです。しかし、国内のエネルギー市場の進展は、まだまだ不十分なところがあります。日本に必要なのは、持続可能な日本というビジョンに沿った施策に焦点を当てることです。水素ではなく、再生可能エネルギーを優先することが、良い出発点になるかもしれません。

世界各国では、再生可能エネルギーと二酸化炭素排出量の目標を日々押し上げています。しかし、日本はネットゼロへの移行の基幹となる資源として、水素に賭けています。再生可能エネルギーに比べれば野心的かもしれませんが、日本の水素戦略は長く、困難で、コストがかかるものとなります。時間との戦いの中で、これは理想的とは言えません。

遅々として進まぬ日本

日本は世界第3位の経済大国であり、最も革新的な国の一つです。しかし、BloombergNEFのGlobal Climatescopeでは、日本は電力市場のファンダメンタルズ、クリーンエネルギーへの移行の機会や経験の観点から50位にランクされています。アジア太平洋地域全体では、9位となっています。

2020年現在、日本の再生可能エネルギーによる発電量は、欧州などの地域と比較して低い水準となっています。エネルギーと気候の研究機関である環境エネルギー政策研究所によると、日本は電力の20%をクリーンエネルギーで賄っているに過ぎません。一方、欧州はすでに38%に達しています。日本が欧州の水準に到達するのは、かなり先のことだと考えています。

依然として大きい化石燃料の役割 – 温室効果ガス排出量の増加

その大きな要因は、日本ではまだまだ化石燃料が欠かせないということです。2019年には、日本の一次エネルギー供給の88%を占め、割合としては世界第6位でした。さらに、エネルギー需要を満たすために96%以上を輸入に頼っています。結果として、日本は世界的に見ても最も炭素集約度の高い国の一つとなっています。

大きな問題の一つは、日本が頑なに石炭や液化天然ガス(LNG)フリートを拡大し続けていることです。化石燃料の段階的な廃止は、最優先課題ではないようです。COP26で日本は、世界的な石炭使用廃止の公約に署名せず、国際的な環境グループや活動家の反感を買いました。さらに、COP26の圧力や気候変動協議の後も、石油・ガスを支持し続けています。

日本のエネルギー供給源別総エネルギー供給量(TES)
出典:IEA

化石燃料から脱却するための日本の水素戦略

日本は、化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えるのではなく、気候変動対策として水素技術に着目しています。実際、日本は世界初の水素経済圏を目指しており、すでに何年も前からこの方向で動いています。大規模な水素供給インフラを持ち、水素プロジェクトの数も増えています。日本の川崎重工業が、世界初の液化水素を発表しました。

日本の水素基本戦略

2017年、日本政府は水素基本戦略を発表し、世界に先駆けて国家的な水素の枠組みを採用しました。一連の法整備と計画により、2030年までに300万トン、2050年までに2000万トンの水素経済と水素生産を拡大する予定です。

これは表面的には立派に見えるかもしれません。しかし、ワシントン・ポスト紙が報じたように、水素やその他の未検証の技術に重点を置くことは、クリーンで再生可能なエネルギーへの投資から焦点を逸らすことになると考える専門家もいます。このシナリオでは、グリーン成長戦略を実行するのは困難です。

グリーン水素の代わりとして、ブルー水素への注目度が高まる

再生可能エネルギーから製造されるグリーン水素であれば、ネットゼロの移行に果たすべき役割はありますが、日本の水素は主にブルー水素として製造されます。ブルー水素の問題は、天然ガス生産の副産物であり、化石燃料と密接に関係していることです。日本にはもっとグリーン水素プロジェクトが必要です。

グリーン水素はブルー水素より高価なのか

その答えはYesです。現在、ブルー水素はグリーン水素よりも安価に製造することができます。しかし、ネットゼロへの移行を急ぐ日本にとって、ブルー水素は二酸化炭素排出量の大幅な削減や輸入エネルギーへの依存の解消にはあまり貢献しません。

ブルー水素 vs. グリーン水素
出典: Cheranna Energy

しかし、日本は明らかな欠点に気づいていないようです。2021年、日本はオーストラリアと共同で、褐炭を水素に変えるプロジェクトを開始しました。「グレー水素」と呼ばれる最も汚染度の高いタイプの水素です。オーストラリアで水素を製造した後、炭素を回収せずに日本へ輸送します。両国とも、現場で発生する二酸化炭素を回収することを示唆していましたが、今後の詳細については軽く触れただけでした。

また、このようなプロジェクトは、今後何年にもわたって日本の石炭との結びつきを強め、石炭プロジェクトに伴う炭素回収技術のような経済的合理性に欠ける技術にコミットするリスクをはらんでいます。しかし、最も重要なことは、再生可能エネルギーからさらに距離を置くことになってしまうということです。このような水素戦略で遠回りをすることは、正しい行動とは言えません。

ブルー水素は気候変動を遅らせることはできない

これまで日本は、アジア各国に対して数十億ドルの支援を約束し、クリーンエネルギーのインフラ整備を支援してきました。しかし、不思議なことに、化石燃料からの脱却は遅れ続けています。 

最近、経済産業省の武本登課長補佐はロイターに対し、日本が世界的な石炭の段階的廃止の取り組みを支持しなかったのは、「日本が海に囲まれており」「単一の完全なエネルギー源」を欠いていたからだと述べました。しかし、分析によると、日本には多様な再生可能エネルギーミックスの大きなポテンシャルがあることがわかっています。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の調べでは、世界で3番目に地熱エネルギーのポテンシャルが高いことがわかりました。また、日本の地形は洋上風力発電に適しています。 

このような理由から、再生可能エネルギーに対する日本の躊躇は、「日本の親石炭企業」が主導しているとする見方があります。動機はともかく、ネットゼロエコノミーに向けた取り組みを開始する必要があります。これは世界にとって経済的に重要であり、より気候変動に配慮した政策は、世界各国への意思表示となります。

30年以内に炭素排出量世界第6位からネットゼロにするためには、早急な対策が必要です。もう燃料の延命をしている場合ではなく、日本は再生可能エネルギーの確実な機会を受け入れるべき時がきています。

※この記事は、2022年1月11日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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