アンモニア・ブルー水素プロジェクトでの移行債の使用:投資家と発行会社のリスク

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アンモニア・ブルー水素プロジェクトでの移行債の使用:投資家と発行会社のリスク

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2023年7月3日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia

ブルー水素・アンモニアプロジェクトへの資金調達に移行債を使用することは、気候変動の危機を拡大させるリスクをはらんでいます。しかし、それ以上に重要なのは、最も必要とされている時に、気候変動融資の理念を貶めてしまう点です。

アジアの有力企業は今、ブルー水素とアンモニアへの賭けを強めています。しかし、科学者や専門家は、これらの技術は環境に優しくなく、十分な財政的根拠もないと声をそろえて警告しています。再生可能エネルギーと比較すると、コストが高く、リスクが大きく、また汚染度も高くなります。したがって、投資家は移行債発行者の資本の使い道について、これまで以上に警戒する必要があります。

ブルー水素・アンモニア:最近の日本企業の焦点

マーケットフォースの最新分析によると、三菱商事、JERA、三菱重工業(MHI)、住友商事、三井物産などの企業が、ブルー水素・アンモニアに焦点を当てていることが明らかになりました。さらに、投資家から資金を集め、プロジェクトに融資するため、移行債を利用しています。

三菱商事

三菱商事は、米国で年産100万トンのブルーアンモニア設備の開発に取り組んでいます。同社は、シェル社とともにカナダでブルー水素を製造する計画を立てています。また、三菱商事は、インドネシアにおけるブルーアンモニア製造の実証調査に、他のパートナー企業とともに参画しています。

三菱重工は、100億円の移行債プログラムを立ち上げ、その一部をブルー水素製造に充当するとしています。また、インドネシアやシンガポール近郊のジュロン島でもアンモニア発電を計画しています。

JERA

JERAも、アンモニアと水素の混焼プロジェクトへの資金調達として移行債を発行しています。報告によると、JERAはインドネシアでも水素とアンモニアの混焼を推進しています。

住友商事

住友商事は、オーストラリア産の石炭から、グレー水素よりも汚染度が50%高いブラック水素を製造するパイロットプロジェクトに参画しています。また、英国オマーンでブルー水素の実証調査を実施しています。

三井物産は、米メキシコ湾に年産100万トンのブルーアンモニアプラントを建設するプロジェクトに参画しています。

このような取り組みは、水素国家戦略に基づくものです。現在日本は、世界第5位の炭素排出国であり、化石燃料産業向け開発融資の主要な供給国となっています。

ブルー水素・アンモニア:姿を変えた化石燃料

Market Forcesによれば、ブルー水素を扱う企業は、その活動により、気候変動対策へのコミットメントを一挙に損なっています。これは、日本の水素・アンモニア計画の拡大を「グリーンウォッシング」と評していた一流のエネルギーの専門家が、以前から指摘していたことです。ブルー水素・アンモニアは、潜在的に、石炭やガスを延命するものだからです。ブルー水素・アンモニアを製造する際に二酸化炭素が排出されるため、化石燃料を燃焼させる場合と比較しても、気候変動対策の恩恵を完全に打ち消しています。暖房に使う場合、ブルー水素は天然ガスよりも温室効果ガスの排出量が20%多いという研究結果もあるほどです。

アンモニア・ブルー水素プロジェクトでの移行債の使用:投資家と発行会社のリスク
出典:Market Forces

ブルー水素の製造には、大量の二酸化炭素の排出が伴いますが、石油会社やガス会社は、二酸化炭素回収・貯蔵(CCS)を使って対処することを提案しています。しかし、この技術の実績には疑問が残ります。例えば、三菱商事が関わっているシェル社の既存のブルー水素施設は、回収するよりも多くのCO2を排出しています。さらに、政府から7億2,000万カナダドルの補助金を受け取っているにもかかわらず、稼働から6年近く経っても黒字化されていません

投資家が注意すべき点:移行債と、疑いの目を向ける必要性

推進派は一貫して、ブルー水素技術の費用対効果や気候変動対策としての信頼性を誇張してきました。

しかし、Market Forcesの報告書が指摘するように、エネルギー産業によるこのような汚染度の高いプロジェクトに対し、三菱重工やJERAのケースのように、移行債で資金調達される場合、大きな問題となります。JERAの移行債プログラムは、すでに気候債券イニシアチブからの批判の対象になっています。彼らは、このプログラムはネットゼロの目標に沿ったものではないとしています。

さらに、Market Forcesが指摘するように、日本の経済産業省が独立保証業者とともに行う評価では、JERAと三菱重工が提案する資金使途の技術的実現可能性や関連する財務リスクは対象に含まれません。両社とも、収益金の使途による排出量を報告する必要すらありません。結果として、投資家は融資を受けた排出量について情報を得られない状態となります。

このような事例があるからこそ、Market Forcesは上記の企業の投資家に対し、ブルー水素・アンモニアに基づく技術の使用に反対する声を上げて、リスク管理を行う必要性について警告しています。

ブルー水素・アンモニアは再生可能エネルギーに勝てない

環境問題を抜きにしても、ブルー水素・アンモニアプロジェクトは、再生可能エネルギーよりも高コストとなります。また、クリーンエネルギー技術や再生可能エネルギーで作られた電気のコストは下がり続けています。そのため、ブルー水素・アンモニアの技術の合理性についての疑問が生じます。

例えばアンモニアの場合、インドネシアの電力セクターの脱炭素化ロードマップによると、インドネシアの石炭工場でアンモニアを20%の割合で混焼する場合、炭素価格が1トン当たり200米ドル以上でなければ、経済的リターンがプラスにならないとされています。参考までに、2022年末に施行が計画されているインドネシアの新炭素税は、1トン当たりわずか2米ドルです。

TransitionZeroによると、ほとんどのアジア諸国ではすでに、石炭からクリーンエネルギーへの移行は、石炭からガスへの移行よりも安価となっています。その他の国でも同等の価格であり、2024年にはクリーンエネルギーの方が安価となります。さらに、再生可能エネルギー電力のコスト低下が進めば、アンモニアや水素発電に対する優位性はさらに高まります。

結果として、投資家や天然ガス業界がブルー水素・アンモニアプロジェクトを支援することは、大きなリスクにつながります。これには、リターンの低下、座礁資産、ネットゼロコミットメントの不履行などが含まれます。

ブルー水素・アンモニアは化石燃料に関連する技術であるため、カーボンニュートラルに向かう世界では将来性がありません。結果として、このようなインフラは、注ぎ込まれた投資家の資金とともに、座礁資産となるリスクを増大させます。

そのような警告を発しているのは、Market Forcesだけではありません。Institutional Shareholder ServicesのESG部門は、ブルー水素への投資が「重大なリスク」になると警告しています。

しかし、失敗の代償を負うのは投資家だけではありません。ブルー水素・アンモニアプロジェクトを開発する企業は、重大な座礁資産リスクにさらされる可能性があります。株主価値を損ない、競合他社に遅れをとる原因にもなりかねません。

移行債を「クリーン」に

シェル社のCEOが指摘するように、ガス価格の高騰により、ブルー水素は競争力を失っており、グリーン水素も同様です。結果として、ブルー水素・アンモニアのような技術に投資することは、経済的にも環境的にも無意味です。また、企業や投資家にとっても大きなリスクを伴います。

さらに重要なことは、化石燃料関連のプロジェクトを支援するために移行債を使用することは、気候変動融資の将来性を危うくする危険性があるということです。投資家はゼロエミッション技術に資金を振り向ける代わりに、意図的でないにせよ、現状を支持するリスクを負います。最も脆弱な国々が緩和、適応、損失、損害に対して融資を求める声が日に日に大きくなっていることを考えると、これはESG投資家にとって最も避けたいことです。

※この記事は、2022年10月24日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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