日本のアンモニアグリーンウォッシングに対する批判の背景にあるもの

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日本のアンモニアグリーンウォッシングに対する批判の背景にあるもの

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2023年6月26日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia

日本のアンモニアグリーンウォッシングに対する批判は、この国が再生可能エネルギー主導の未来を積極的に追求することに二の足を踏んでいることを示しています。水素の次は、専門家が解決策というよりもむしろ現実逃避とみなしている別の燃料に目を向けています。

数週間にわたる日本のアンモニアグリーンウォッシングに対する批判の声は、根強く残っています。これは当分の間続くでしょう。日本は先進国として、世界のクリーンエネルギーへの移行、ネットゼロエミッション、二酸化炭素や温室効果ガスの抑制に向けた取り組みの最前線に立つべき存在です。にもかかわらず、最も合理的な選択肢である再生可能エネルギーを見過ごしながら、代替策を探して、あらゆるものに目を向けています。直近ではアンモニア燃料を推し進めるなど、日本の方向性は控えめに言っても迷走しています。 

日本のアンモニア計画

2022年1月、日本の排出量の10%以上を排出する企業であるJERAが、アンモニア技術開発に6億米ドル近くを投資する計画を発表しました。3つのプロジェクトのうち2つは、2029年3月までに石炭火力発電のアンモニア混焼比率を50%以上とすることを目標としています。3つ目のプロジェクトは、2031年3月までに新しいアンモニア合成触媒を開発することを目標としています。

JERAゼロエミッション2050 日本版ロードマップ。出典:経済産業省

そのために必要な投資の70%を日本政府のグリーンイノベーション基金で賄うとしています。この動きは憂慮すべきものです。これは、日本が化石燃料の廃止を目指すどころか、石炭火力発電所の延命を図っていることを示しています。また、この動きにより、日本はネットゼロ戦略の一環として、アンモニアを大量に輸入する必要があります。 

なぜ日本はアンモニアを推進するのか

日本がアンモニアを推進する理由は、経済の脱炭素化の遅れへの対応から、代替策の欠如まで、さまざまなものが考えられます。しかし、Hydrogen Science Coalition(HSC)の共同設立者であるポール・マーティン氏によれば、日本の決断は「悪あがき」であるとしています。

水素とともに、アンモニアはネットゼロへの道として、再生可能エネルギーを除くあらゆる可能性を日本が模索していることを示しています。

マーティン氏は、Energy Tracker Asiaの取材に対し、「これらのプロジェクトに関する日本の戦略は、実際には脱炭素化に焦点を当てるのではなく、むしろ遅らせている可能性が高いようです」と述べています。

日本の燃料アンモニアのロードマップ。出典:経済産業省

日本のアンモニアに対する批判の背景

気候変動の影響が一般的になりつつある今、世界第5位の温室効果ガス排出国である日本は、思い切って化石燃料を廃止していくべきです。しかしながら、世界第3位の経済大国である日本にとって、化石燃料の使用を中止することは最優先事項ではないように見受けられます。それどころか、現状維持を模索することに終始しているように思えます。

「このような動きは、ほら、努力してますよ!天然ガスに水素を、石炭にアンモニアを混ぜることで、CO2の排出量をわずかに減らすことができます。これは進歩です、と言いたいがための建前に過ぎません」とマーティン氏は話しています。

グリーンアンモニアと再生可能エネルギー

水素と同様に、アンモニアと聞くと「グリーン」なイメージがあります。しかし、グリーン水素やグリーンアンモニアは、理論的には実現可能であるものの、手の届かないものであり、多くの場合、法外に高価です。例えば、グリーンアンモニアは、再生可能エネルギーから製造された水素から製造されます。しかし、グリーン水素のコストは依然として高く、競争力も低いため、グリーンアンモニアの存在は主に研究室やパイロットプロジェクト内のみに留まっています。

JERAのプラントはブルーアンモニアに頼っており、同社関係者はグリーンウォッシングの批判を回避するために、この言葉を用いています。しかし、ブルーアンモニアは、化石燃料由来の水素から製造されます。にもかかわらず、JERAはプロセスから排出される炭素は回収されると主張しています。しかし、このようなプロジェクトによる炭素回収は、メタン漏れの懸念があるため、どうしても疑問が残ります。

さらに、サウジアラビアのプロジェクトサイトで生産されたブルーアンモニアの事例では、当初の予測よりも多くの二酸化炭素を排出する可能性があることが示されています。これは、JERAの主張に疑問を投げかけるものです。さらに悪いことに、日本のブルーアンモニアの輸入の一部を担っている大手石油会社サウジアラムコは、回収した炭素の2/3を「石油増進回収」に使用し、さらに化石燃料を生産することを計画しています。

アンモニア混焼は経済的合理性がない

マーティン氏はLinkedInの投稿で、日本の決定の基盤となる経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)を分析した上で、「無駄なグリーンウォッシング」と表現しています。 

「アンモニアを採取して日本に運び、35%の効率の石炭火力発電所で石炭と混ぜて燃やすという一連のプロセスは、お金を石炭に混ぜて燃やし、バイオ燃料と呼んでいるようなものです」と、マーティン氏はEnergy Tracker Asiaに対し語っています。「電気を直接使うだけのコストに比べて、プロセス全体のコストが高くなりますが、日本が今やっていることはそれより遥かに非効率なことです」

マーティン氏はLinkedInの投稿で、この計画を進めると、他国の経済活動で使用されるエネルギーの「1ジュールあたりのコストの少なくとも5倍」のコストを要すると見積もっています。「日本は豊かな国なので、そのような価格で買えないというわけではありません。しかし、それは国内産業の競争力に影響を与えます」と、マーティン氏はEnergy Tracker Asiaに対し語っています。

また、IEAによると、発電用の低炭素アンモニアは2030年まで高価な状態が続くとされています。日本の石炭火力発電所で低炭素アンモニアを60%の割合で混焼した場合の発電コストは、2030年には通常のエネルギー市場価値より30%高くなると指摘されています。

次の問題は、アンモニアによる発電効率の低さです。エネルギー転換の専門誌Rechargeによると、1トンのグリーンアンモニアを生産するには、合計14.38MWhの電力が必要で、燃やすと5.16MWhの電力が発生します。アンモニアの発電量は、石炭プラントで燃やすと1.96MWhに激減します。CSIROの調査によると、アンモニアを燃料として使用した場合のサイクル効率(電気から電気に戻す)は11~19%です。研究者は、アンモニアを作るのに比べ、再生可能エネルギーを直接使用する方が、「明らかに効率が良い」ことを発見しました。

アンモニアは日本の輸入依存をほとんど解決しない

現在、日本は化石燃料由来のアンモニアの約20%をマレーシアとインドネシアから輸入しており、一部はサウジアラビアからも輸入しています。日本がアンモニアの採用を拡大すれば、輸入量は急増します。石炭火力発電所でアンモニアを20%の割合で混焼すると、合計で年間2,000万トンのアンモニアが必要になります。

「ブルーアンモニア」サプライチェーン実証の構想フロー図
出典:アラムコ

また、アンモニア輸出市場における多様性の低さという問題もあります。そのため、日本が供給リスクや価格変動リスクに直面するシナリオもあり得ます。しかし、後者は、ガス輸入の経験から日本にとって特別なことではありません。例えば、2021年1月、日本の卸電力価格は1MWhあたり1,500ドル近くという史上最高値を記録し、これまでの最高値である2011年の3倍以上となりました。

日本システム電力価格
出典:BNEF

日本にとって簡単な解決策は存在しません。マーティン氏によれば、すべての選択肢を検討する価値はありますが、日本は間違った方向に進んでいるようです。 

「日本の経済を脱炭素化できる簡単な解決策があるとは言っていません」とマーティン氏はEnergy Tracker Asiaに対し語っています。「提案されている解決策がまっとうだとは思えないと言っているのです。もし彼らがこの問題に真摯に向き合い、数字を認識しているのであれば、必死になって風力タービンを作っているはずです。なぜそうしないのでしょうか?私が思うに、彼らは問題との駆け引きをしているのです」

日本の最近の動きは、ネットゼロの目標達成からさらに遠ざかることを意味しています。時間が経つにつれて目標は遠ざかっていくでしょう。「アンモニアは現実逃避です」とマーティン氏は語っています。「現実逃避ではなく、真の解決策に焦点を当てる必要があります」

※この記事は、2022年1月27日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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