「クリーンな石炭技術」という日本の主張を反証する

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「クリーンな石炭技術」という日本の主張を反証する

写真:Rudmer Zwerver

2023年6月21日 – ヘバ・ハシェム / Energy Tracker Asia

日本のクリーン石炭構想は、クリーンエネルギーへの移行を遅らせ、石炭を存続させるための新たな試みであると批判されています。アンモニア石炭混焼はその最新の例に過ぎないのでしょうか?

日本は世界で最も技術進歩の著しい国の一つですが、気候変動対策では遅れをとっています。一方、日本のクリーン石炭技術といううたい文句に注目が集まっています。アジア太平洋地域に属する日本は、現在、二酸化炭素(CO2)排出量世界第5位であり、世界全体の2.88%を占めています。

石炭だけで、2021年の日本のCO2排出量の40%近くを占め、日本の発電量の約3分の1を占めています。

日本はなぜ石炭を燃やし続けるのか – 日本の石炭消費

国としては近年、エネルギーミックスの多様化を進め、2030年までに26%の排出量削減を達成することを約束しています。しかし、未だに汚染度の高い化石燃料に大きく依存しています。2019年、日本の総発電量に占める化石燃料の割合は88%でした。また、資源に乏しい国であるため、エネルギー消費需要の96%以上を輸入に頼っています。

福島原発事故により国内のすべての原子力発電所を停止して以降、化石燃料への依存度を高めています。多くの原子炉が未使用のままですが、原子力インフラから失ったエネルギーを補うために徐々に石炭火力発電に転換していきました。

クリーン石炭は存在するのか、日本の役割とは

石炭は、地球の気温上昇の最大の原因となっています。世界の平均気温が1度上昇した場合、そのうちの0.3度以上が化石燃料によるものです。

日本は気候や地形から、自然災害の影響を特に受けやすい国です。例として、地震、台風、集中豪雨などが多発しています。一方、海岸浸食や海面上昇の影響も受けています。

それでも日本政府は石炭プロジェクトを推進し、海外の同様のプロジェクトに資金を提供することを止めようとしません。他の先進国が排出量削減のために石炭を段階的に減らしている中、日本は新たな生産能力を増やし続けています。国内140基の石炭火力発電所のうち、約100基を段階的に廃止すると発表したにもかかわらず、さらなる建設が続けられています。最新プロジェクトである107万kWの石炭火力発電所は、2022年半ばに稼働を開始しました。

日本におけるクリーン石炭技術

同時に、電力生産の脱炭素化のために、先進技術を駆使した「クリーン石炭」を構築するとしています。その一つが、既存の石炭火力発電所に実装されているアンモニア混焼技術です。

アンモニアとは

アンモニアは、窒素と水素の化合物です。直接燃焼処理の燃料として使用することができます。また、水素エネルギーキャリアとして燃料電池に使用したり、発電のための石炭混焼に使用したりすることもできます。

アンモニアを直接燃焼させることで、従来の化石燃料燃焼エンジン、ガスタービン、焼却炉の用途において、主燃料源または添加剤として使用されます。

しかし、実際に燃焼させるのは簡単ではありません。これは、アンモニアを過剰な空気で燃焼させると、一部が酸化され、副産物として窒素酸化物(NOx)と亜酸化窒素(N2O)が生成されるからです。N2O排出による温室効果は、CO2の約300倍に相当します。CO2と同等の削減を達成するためには、これらのガスを最小限に抑える必要があります。

石炭火力発電所を存続させる理由

日本は、アンモニアをネットゼロ計画に含めるという野心的な目標を掲げています。これまで、石炭火力発電所でのアンモニア混合を、CO2排出量削減の有力な解決策として推進してきました。しかし、これらの計画は、石炭火力発電所の延命を図るものであるとの批判が広がっています。

経済産業省は、アンモニアと石炭の混焼率を2030年までに50%以上にすることを目標としています。また、アンモニア混焼バーナーの実証プロジェクトを同年までに完了させ、商用導入を開始する計画を立てています。

日本の国立研究開発法人であるNEDOは、国内の合弁会社を指定して4年間の調査を実施しました。合弁会社は、2025年までに1,000MWの石炭火力発電所で20%の割合でアンモニアを混焼する実証プロジェクトを完了する予定です。

費用対効果も気候変動対策としての効果も低い

ロンドンに拠点を置く気候データ提供会社TransitionZeroによると、日本は脱炭素化の手段としてアンモニア石炭混焼の開発に意欲的であるものの、この技術による二酸化炭素削減の可能性は限られています。

アンモニアと石炭の混焼率が20%でも、通常のガス焚きコンバインドサイクル発電所の2倍の排出量となります。

国としては、2030年までに混焼率を50%にするというより野心的な目標を掲げており、実現すれば、ガス発電の排出量に近づけることができるかもしれません。しかし、IEAのネットゼロエミッションシナリオに沿うためには、2035年までに化石燃料の使用量を削減する必要があります。

また、石炭火力発電所でのアンモニア混焼は高価でもあります。現時点で最も安価なアンモニア源であるグレーアンモニアは、サーマルコールの4倍程度のコストがかかります。グリーンアンモニアは石炭の15倍と、コストの差はさらに開きます。

さらに、アンモニアの製造そのものが炭素集約度が高いものになっています。世界では、アンモニアプラントの98%が化石燃料を原料としており、主に天然ガス(72%)を使用しています。国内には原料となる安価なガスがないため、国産アンモニアは高コストになります。つまり、国内の電力会社はより安価な輸入品に頼らざるを得なくなり、エネルギー不安はさらに高まることになります。

さらに、石炭火力発電所の既存エンジンをアンモニア燃焼に対応させるために改造することも、設備コストの上昇につながります。

国としてはすでに、この技術を使った2つの実証プロジェクトに2億4,200万米ドルもの補助金を出すことを計画しています。このプロジェクトは、2029年までに50%の割合でアンモニアを石炭と燃焼させることを目的としており、総工費は3億9,200万米ドルとなります。

資金のより良い使い道:ゼロカーボンテクノロジー

このような資金は、再生可能エネルギーのようなクリーンなエネルギー源に振り向けることができます。

日本では現在、電力の総電力の21%を再生可能エネルギーでまかなっており、2014年の12%から増加しています。しかし、これは他のG7諸国の達成率と比べると、かなり低い水準となっています。例えば、ドイツの再生可能エネルギーの割合は49%に達し、英国は39.7%、イタリアは36%となっています。

先日、東京都が2025年4月からすべての新築住宅に太陽光パネルの設置を義務付けるという前向きな一歩を踏み出しました。都としては、システムの設置に対して補助を提供する意向であり、この決定は、政府からの多額の投資を必要とします。補助には、設置から10年以内であれば住宅所有者から太陽光発電を割高で買い取ることも含まれます。

他に「クリーン石炭技術」の活用を試みている国はどこか

日本がアンモニア石炭混焼を積極的に推進している一方で、諸外国も同様の戦略をとっています。韓国インドチリでは、石炭火力発電所でのアンモニア活用の評価が始まっています。

最も懸念されるのは、日本がインドやインドネシアマレーシアなどの東南アジア諸国に、その手法を輸出しようとしていることです。

座礁資産のリスク

アンモニア石炭混焼にはさまざまな課題があり、このままでは日本の気候変動対策に大きな支障をきたします。

そればかりか、高コストで時代遅れの技術に縛られることになりかねません。再生可能エネルギーがより現実的で安価になっていくにつれ、「クリーン石炭」への投資は座礁資産となる可能性が非常に高まっています。

※この記事は、2022年12月23日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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