欧州のLNG輸入急増で、アジアのガス投資への反対論が強まる

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欧州のLNG輸入急増で、アジアのガス投資への反対論が強まる

2023年5月31日 – Energy Tracker Japan

最終更新日:2023年6月7日

2022年は、世界のエネルギー市場の基本的な力学が完全に覆された年となりました。

新型コロナウイルスの大流行による混乱から経済が回復を続ける中で、需要喚起に向けた強力な施策の組み合わせが地政学的混乱に直面し、それによって供給側の経済が劇変しました。  

ロシアのガスパイプライン依存から脱却するため、欧州では液化天然ガス(LNG)に対する関心が高まり、アジアはエネルギー市場価格への影響から逃れられず、記録的なLNGカーゴ価格に再び見舞われています。  

電力セクターでは、世界のガス・LNG市場の容赦ない価格高騰により、広範囲に影響が及んでいます。石炭から再生可能エネルギーへの移行を支える資産に電力を供給し、間欠性をカバーする「信頼性の高い」バックアップ供給を提供するために必要な、比較的害が少ない化石燃料と見られていたものが、今では信頼できる性質を備えていないことが明らかになり、国家の自給自足にはるかに重点が置かれています。 

このため、価格がすぐに下落するとは思えない世界のガス・LNG市場への依存とエクスポージャーを大幅に減らすため、積極的な措置を講じる必要性が浮き彫りになりました。気候変動問題への対応やエネルギー安全保障の観点からも、これがベストな選択であることは間違いありません。  

アジアのLNGトラップは避けなければならない

2022年の4月上旬私たちは、報告書『不確実性を煽るのはやめよう:なぜアジアはLNGトラップを避けるべきか』を発表しました。このレポートでは、日本と韓国が2050年のネットゼロエミッションを目標に電力システム計画を策定する中で、ガス火力発電事業者が直面する財務リスクが増大していること、またベトナムでは新設ガスプラント群の建設計画がますます実行不可能になりつつあることを伝えています。  

今は投資家がガス依存型のプロジェクトにさらなる設備投資を行う時期ではなく、アジアにおける再生可能エネルギーのガスに対するコスト競争力はますます明らかになっていることを強調した私たちの主張は、公開後の数カ月でさらに説得力を増したと言えるでしょう。  

本レポートでは、歴史的な価格変動により、日本と韓国はLNG市場への依存度を下げるための措置を講じるべきであり、ベトナムは長期的なエクスポージャーを回避すべきであることを強調しましたが、ここ数カ月で目先の価格が上昇の一途をたどっていることは明らかです。

ロシアからのパイプラインによる欧州へのガス供給が途絶えたことで、欧州各国は世界のLNG市場に供給先を求めています。また、LNGカーゴの競争激化により、アジアのバイヤー向けの価格も高騰しています。 

したがって私たちはモデルを更新し、これらの国のガス火力発電所の将来の燃料コスト入力値を、2021~22年に記録された値(2022年7月~12月の先物市場契約価格を使用)を基に、将来の価格が事前に判明することを想定して再計算しました。更新前の想定基準の選択理由は、パンデミックの両サイドの価格変動レベルを反映するためでしたが、その後、LNGバイヤーが短中期的に2019年または2020年の価格水準に戻ることで利益を得る可能性は低いことが明らかになりました。  

今回の更新の結果は、現在の市場価格では、アジアのガス火力発電所への投資機会は、これまでの推定よりもさらに狭く、低コスト・低リスクの再生可能エネルギーがガス発電所の稼働時間と収益性をはるかに速いペースで侵食することを示しています。 

2021~22年の価格想定ベースを使用すると、日本では、新規の独立型太陽光発電所プロジェクトは、均等化発電コスト(LCOE)ベースで生涯運用コストを比較すると、国内の新規建設または既存のガス火力発電所よりもすでに安価な投資になっていると推定されます。また、4時間のリチウムイオン電池貯蔵技術を搭載した太陽光発電は、2024年までに新規および既存のガス発電設備に対するコスト競争力を持つようになります。日本では厳しい地形のために土地の建設コストが高く、自然災害が多いために保険料が高くなる傾向があるため、日本の太陽光発電のLCOE推定値が他の国よりも著しく高くなっているにもかかわらずです。  

更新結果によると、現在のLNGの市場価格では、日本における陸上風力発電の新設・運用コストは、新設・既存のガス火力発電所よりもすでに安くなっていることがわかります。この10年以内に、新設の洋上風力発電所も、新設・既存のガス発電所と競合するようになるでしょう。  

これまで、洋上風力発電技術が日本でコスト競争力を持つようになるのは2030年代半ばから後半と予想されていましたが、世界のガスコストの継続的な上昇により、この変曲点はずっと早くなっています。再生可能エネルギー、特にガス火力発電所と同等の設備利用率を持つ洋上風力発電と、ガスと同様の送電網の柔軟性を提供できる蓄電池の組み合わせは、すでにコスト競争力を備えているか、近い将来そうなる可能性があるため、日本政府は、2050年のネットゼロ目標に向けて電力部門のガス利用の段階的廃止を具体的に計画することが可能です。 

下の図は、日本のガス火力発電所の運転コストを既存と新設で比較したものです。今後数年間に稼動予定のプロジェクトのコストを合算し、稼動予定の年ごとに新設ガスのLCOEを棒グラフで示しています。同じ図に、ガス発電所を稼働させた場合の全体の長期限界コスト(LRMC)も示しました。 

韓国については、新設の太陽光発電所の方が新設のガスよりも全体の投資額が安価であり、蓄電池設備を備えた太陽光発電もちょうど2025年までにコスト競争力を持つようになると、すでに予測されていました。しかし、今回更新した前提条件を用いると、国内で建設される陸上風力発電所も、LCOE比較では新設ガスよりもすでに安価な投資となっていることが推定されます。  私たちは2025年までに、韓国の洋上風力発電設備が新規ガス設備とコスト競争力を持つようになるとの予測を継続します。また同年には、新設の洋上風力発電所が韓国の既存のガス火力発電所を上回ることを新たに予測します。これまでは、この変曲点が国内の既存ガス発電所に訪れるのは2020年代後半になると予想されていました。 

韓国のガスプラントと再生エネルギーのコスト比較

日韓両国の多くのガス火力発電事業者は、現在および今後数年間に必要とされるLNG燃料を、長期供給契約により、現在のスポット価格よりも大幅に低い価格で確保していることに留意することが重要です。 

しかし、すでに日本の一部の業界バイヤーは、不本意ながらスポット市場での購入で供給需要を満たす必要に迫られています。新日鉄は7月のカーゴに対して40ドル/MMBTU以上の価格(日本にとって過去最高のLNG輸入価格[1])を支払うと伝えられており、これはすべての企業が保護されているわけではないことを示しています。

また、供給契約は、限られた期間、電力セクターのガスプラント所有者を保護するものであり、いずれは期限切れになるか、更新が必要になります。また、世界のLNG価格が近いうちに下落するとの予測はほとんどなく、化石燃料を火力とする発電事業者が現在の高値にさらされるのはもはや時間の問題と思われるため、これらの国で、ガスの長期使用を継続するために、再生可能エネルギーを犠牲にして投資するという論拠は大いに疑問視されます。

ネットゼロに向けたベトナムの「石炭からクリーンエネルギー」の道

ベトナムにおいて、LNGへの長期的な依存開始に反対する論拠は、かつてなく明確になっています。私たちはレポートの中で、ベトナム政府が昨年のCOP26で掲げた、2050年までにネットゼロエミッションを達成するという目標に向けて[2]、電力セクターがガスによる「橋渡し」を行わずに、石炭からクリーンエネルギーへの移行を計画することにより、同国のエネルギーセクターを軌道に乗せられることを強調しました。

同国は、初日から経済的に苦戦するガス火力発電所を新たに建設するだけでなく、大規模なLNGターミナルインフラ(当初計画された範囲では利用されず、その結果、座礁の危険にさらされることになる)を新たに建設するリスクも抱えています。  ベトナムが今後数年間に稼動させる予定のガス火力発電所に関する私たちの最新の推定によれば、いずれの発電所も、その存続期間を通じて運転するには、蓄電池を備えた再生可能エネルギー発電や洋上風力発電よりも、運転コストが高くなることがすでに予測されています。

ベトナムのガスプラントと再生エネルギーのコスト比較

2022年初めに発表したレポートで、私たちはベトナム政府に対し、石炭とガスの両方の発電を段階的に廃止するという世界各国が直面している困難を回避することにより、ネットゼロをはるかに達成可能なものにする機会を逃さないように求めました。私たちは、政策立案者に対し、グリーンテクノロジーが化石燃料と経済的に早期に競争できるようにすることで、再生可能エネルギー分野における同国の膨大な潜在能力が発揮されるよう、十分なインセンティブを導入することを要請しました。  

CFDの形で投資家に保証することは、ベトナムの再生可能エネルギー分野への最終的な投資決定を促すのに役立ちますが、ここ数カ月に見られた世界的なガス価格上昇は、再生可能エネルギーを犠牲にして同国および世界で新しいガス火力発電施設を建設する経済的論拠がもはや有効でないことを示しています。  

※この記事は、2022年9月6日にCarbon Trackerのウェブサイトに掲載され、Energy Tracker Japanが許可を得て日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら


Carbon Trackerについて
Carbon Tracker Initiativeは金融を専門とする非営利シンクタンクで、気候変動の実情に合わせて資本市場の動きを調整することにより、気候安全保障に資する世界エネルギー市場の実現を目指しています。カーボンバブル燃やせない炭素、および座礁資産に関するこれまでの研究は、金融システムを低炭素の未来に向けたエネルギー転換に合わせる方策についての新たな議論の起点となりました。 http://www.carbontracker.org

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